その四、弁当
釣り場で食べる弁当と言うのはとてもおいしいものです。
例えおにぎりとたくあんだけだとしても、雄大な海、抜けるような青空の下でほおばるお弁当は、どんなご馳走よりもおいしく感じられます。
磯釣りでのお昼のお弁当は、各地の各渡船店でシステムが異なっています。
全くお弁当の販売がされていなくて、渡船に乗る前に他所で購入してこなければいけない渡船店。
事前予約で早朝の乗船時に持たせてくれる渡船店。
乗船前に弁当の注文を聞いておいて、お昼前に配ってくれる渡船店。
渡礁時に船長さんにお弁当の必要を告げておいて、お昼前に持ってきてくれる渡船店。
それぞれの渡船店の弁当システムは必ず事前に聞いておかないと、磯の上でひもじい思いをすることもあります。
それは、まだ私が一人で各地の磯を武者修行で回っていたときのことです。
そこの渡船店は渡礁の下船時に船長さんに告げておくシステムでした。
少し大きめの磯に私を含めて3組ほど下船しました。
その渡船店の船は小型でマイクなど付いておらず、補助の係員もいません。
乗員は船長さんだけで、磯付けした後の渡礁や乗船は、各自が行わなければいけません。
渡礁と同時に船長さんが、
「お弁当いるもんおるか~?」
と、操船しながら大声で聞きます。
弁当の必要な者は手を挙げて、2つ!とか3つ!とか大声で注文します。
この時、私も手を挙げて
「いるよ~!1つ~!」
と確かに告げました。
そして船長さんは合図の手を挙げて、磯を離れ次の釣り場へと移動していきます。
午前6時頃から開始して5時間ほど経って、お昼前の11時頃になるとそろそろお腹が空いてきます。
弁当船はまだかな~と思っていたら、海原の向こうに小さな船がやってきます。
徐々に近づいて、順番に各釣り場に弁当を手渡していきます。
私の立つ磯の前にやってきて、
「お弁当取りに来てくれよ~!!」
と船長さんが叫びます。
船長さん一人なので、磯にいる誰かが船に乗り込んで弁当を取ってきます。
場合によっては手網を差し出して、網の中に弁当を入れてもらったりします。
私も竿を置いて、船の前にやってくると弁当の個数が足りません。
「弁当は~??」
と私が聞くと、
「オマエ弁当要ったんか~!?」
と、怒るように言われました。
瞬間的に私は、はあ?あんたきちんと確認したやんか!と内心でムカっときました!
言葉に窮していると船長さんは、
「追加か! オマエ要るのか要らんのか~!?」
と、ますます腹が立つことを言い始めたので、私は、
「もうええよ~! その代わり、弁当配り終えたら迎えに来てくれ!!」
と大声で言いました。
船長さんは何も言わず、次の磯へ。
私はその間に道具を全て片付け、腹立ち紛れにバッカンの巻き餌を全て一気に釣り場にぶちまけます。
(これをやると一気に魚の食いが立つが、その後の釣りはダメになってしまうこと多いです。)
船が一巡して帰って来ます。
私は何も言わずに乗り込み、港に帰って来たら渡船代を払ってさっさと帰って来ました。
その磯へは二度と行くことはありません。
それ以後、別の磯場へ行くときは飲料と共に、必ず1つだけ非常食をバッグに忍ばせています。